秘密の地図を描こう
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地球軍による新型MSの奪取に関しては、ある意味、想定の範囲内だったと言っていい。その結果、自分達が出撃することも、だ。
「議長だけじゃなく、あの二人が乗り込んできたことは全くの想定外だったがな」
ミゲルは小さな声でそう呟く。
確かに、あの状況では仕方がなかったかもしれない。だが、と彼はため息をつく。ここにはキラとラウもいるのだ。
「どうしますか?」
レイがそっと問いかけてくる。
「どうするも……接触させないようにするしかねぇだろう」
幸いと言っては言葉は悪いかもしれないが、ギルバートが乗り込んでいることで彼らの目をそらすことができるだろう。
後は、整備陣その他に口止めをしておくだけだ。
「いざとなれば、議長に命令を出してもらえばいいだろう」
それに関しては、レイに任せる……とミゲルは言う。
「わかりました」
即座に彼はうなずいてみせる。
「後は……不本意ですが、あの二人も巻き込んだ方がいいかと」
「シンとルナマリアか?」
確かに、それはそうなのだが……とミゲルも思う。しかし、大丈夫なのだろうか。
「キラさんのそばには、ラウがいますから」
彼の言葉に逆らいきれる人間がどれだけいるか、と言われて思い切り納得する。
「隊長だもんなぁ」
その気になれば、この艦ぐらいあの弁舌で乗っ取れるだろう。今の自分達にそれが向けられないだけマシだろうか。
「と言うわけで、俺はあいつらの面倒を見てくるから」
「わかりました。二人には、しばらく、部屋でおとなしくしていてくれるように頼んできます」
ラウさえ納得すれば、キラを抑えておいてくれるだろうが……と言うレイの判断は正しい。正しいのだが、この二人を見ているとどちらが年上なのかわからなくなる。
「あの二人のことは……」
「伝えた方がいいでしょう」
「そうだな」
どうせなら、ニコルも乗り込んでくれていれば楽だったのに……と思わず呟いてしまう。
「アマルフィ先輩ですか……」
否定はできない、とレイもうなずく。
「でも、代わりにラウがいますから」
「だな。アスランもあの人には逆らえまい」
勝てるとすれば、それこそキラかギルバート、それにラクスぐらいではないか。
しかし、問題はいつまでごまかしておけるか、だろう。
自分は実際には目にしたことはない。しかし、話だけは山ほど聞かされている。それが話半分だったとしても、二人のキラに対する執着はかなりなものだ。
「……キラさんの体は、まだ完全によくなったわけじゃないですし」
さらに、レイはとんでもないことを言ってくれる。
「そう、なのか?」
普通にしているように見えるが、と思わず聞き返す。
「普通にしている分には大丈夫ですが……少しでも負担がかかるようなことになれば、また寝込みます」
最悪、入院することになるのではないか。そう言って彼は顔をしかめる。
「そうならないように、家の連中にも釘を刺しておかないとな」
「そうですね」
特にあいつに、とレイが名指しをしたのは誰か、聞かなくてもわかってしまう。
「俺としては、ルナの方が心配だがな」
それと、ブリッジにいる彼女の妹か。
「……そうなのですか?」
「女性を甘く見るなよ、と言うことだよ」
噂話が好きなのは女性陣の方だろう、と続ければ、レイは納得したらしい。
「そうですね」
「まぁ、そのあたりのところも議長と艦長と相談しておくよ」
こっそりと、とミゲルは言う。
「お願いします」
二人とギルバートの間の連絡は自分がするが、と彼は続ける。
「じゃ、そう言うことで……あぁ、キラには俺が行くまで部屋から出るな、と伝えておいてくれ」
このまま二人で話をしていてもこれ以上の対策は見つからない。だから、行動するべきだろう。そう判断をする。
「わかりました」
レイもうなずくと歩き出した。